なぜ称賛されるのか?加賀屋の半歩先を行くおもてなし
和倉温泉加賀屋の「おもてなし」は、「宿泊客が求めていることを、求められる前に提供すること」。
「半歩先行く」とは、何なのかを考えてみたい。
「求められる前に」=「半歩先行く」ということであることは理解できる。
つまり「先回り」ということだ。
ではなぜ、一歩や二歩ではなく「半歩」なのか?
若女将の小田絵里香氏の考えに
「一歩も二歩も先んじては、お客様の思いからかけ離れてしまう、かといって後ろからついて行こうとしていたのでは間に合わない。押し売りになってもいけない。」
とある。
その結果が、「半歩」という表現になっているというのだ。
とても素晴らしい距離感だと感じる。
なぜならば、私が考えるおもてなしに欠かせない要素として「さりげなさ、押しつけがましくない」というキーワードが挙げられるからである。
加賀屋が考える距離感は、まさに理想的な「おもてなし」として、「さりげなさ」を表しているのではないだろうか。
相手の行動を先回りして準備をすることが「おもてなし」だったとしても、先回りのし過ぎや過剰な対応は、逆に相手に負担をかけてしまうことになりかねない。
だからこそ、「さりげなく、おしつけがましくなく」お客様に接することがとても大事なのである。
また、半歩先という表現からは、「お客様が何を求めているか?」を知ることができる。
それは、どうやって知るのか?
お客様に興味を持って、観察する。
お客様は今どんな行動をとっているか、お連れ様とはどのような会話をしているか、などの動作から、「察する」のである。
そして察した内容を今までの経験値や知識から「想像する」ことに結び付ける。
それは、一人一人違うもの、マニュアル化できないものを生み出す。
相手に合わせた対応こそが「おもてなし」なのだ。
「おもてなし」とは、語源として「表裏なし」表裏のない心でお客様を迎えるというもの。
つまり、何も求めていない、まっすぐな気持ちで向き合っているということである。
「これはきっとサプライズだろう」「どんなにお客様はお喜びになるだろうか」などと考えているようでは、「おもてなし」の本質ではない。
きわめて普通に、自然にお客様の求めること、希望、思いを叶えることが本当の意味での「おもてなし」なのである。
極論、「おもてなし」はお客様に気づかれなくてもよいということだ。
お客様が求めていることを、求められる前に提供できれば、お客様は気づかないかもしれない。
なぜなら、お客様が求めていることにお客様自身が気づく前に提供できているかもしれないからだ。
これこそ究極の「おもてなし」と言えるであろう。
お客様にしてみれば、何か特別なことをしてもらったかどうかはわからないが、「何だか気分が良い」「また来たい、利用したい」と思うわけだ。
加賀屋の「おもてなし」を提供できるスタッフは、当然ながら志が高く、専門的知識も豊富である。
もちろん、自分自身がプロフェッショナルであるという意識も高い。
徹底すること、極めることでプロフェッショナルへと成長する。
以上のことから、日本のおもてなしが称賛されるポイントとして私が考える要素は次の5点である。
これら5点を備えた日本独自の「おもてなし」を提供すること、また、広めていくことこそが我々おもてなしコンシェルジュとしての使命と考える。