医療機関のおもてなしとは – 医療接遇との違いと具体例
「おもてなし」と聞くと、ホテル・旅館や飲食店が取り組むものだと思うかもしれませんが、最近ではそれ以外でも「おもてなし」の心を活用しようという場が増えており、医療機関も例外ではありません。この記事では、医療の現場で「おもてなし」の心を働かせるとはどういうことなのかについて解説をしたいと思います。
1. おもてなしと密接な関係にある”Hospital”
病院は英語で「ホスピタル(hospital)」と言いますが、この言葉の起源をたどると、「客」という意味をもつhospesというラテン語だといわれています。このhospesは、「ホスピタリティ(hospitality)」や「ホテル(hotel)」の語源でもあります。
「ホスピタリティ」や「ホテル」と聞くと、「行き届いたサービス」や「心のこもった接客」などが思い浮かぶのではないかと思いますが、これらの言葉と「ホスピタル」が同じ語源を持つとは興味深くありませんか?
病院の起源は、中世の西欧諸国において、キリスト教の修道院で行われていた行為にあるといわれています。愛に基づいて行われる他者への慈善的・奉仕的な活動が病院の起源だとすると、なんとなく現在の「ホスピタリティ」という言葉の意味とのつながりが感じられるのではないでしょうか。
お客様を心を込めてお迎えすることを日本では「おもてなし」と表現しますが、これを英語にすると、一般的にjapanese hospitalityと訳されます。「ホスピタル」と同じ語源を持つ言葉「ホスピタリティ」が、「おもてなし」の訳語として使われているのです。「おもてなし」と病院は、全く関係ないものどころか、密接に繋がっているものだということがわかります。
2. 医療機関でのおもてなしとは?
「おもてなし」という言葉を成り立ちから丁寧に紐解いていくと、その意味を「相手への敬意を持ち、心を働かせて、精一杯手を尽くすこと」と定義することができます。
(詳しくはこちら:『おもてなしとは?語源からひもとく本当の意味』)
では、医療の現場で「おもてなし」の心を働かせるとは、具体的にどういうことなのでしょうか?「医療接遇」とはどのように違うのでしょうか?
「接遇」は、患者様に丁寧に接すること・マニュアル的な対応のさらに上をいくものといったイメージがあるのではないでしょうか。その目的は、患者様に気持ちよく利用していただくこと、クレームを未然に防ぐこと(患者様に不快感や不信感を与えないこと)などにあるといえます。
比べて「おもてなし」は、相手への敬意を持って接することですので、患者様を「お客様」としての前に一個人として尊重し接するものです。「おもてなし」自体の目的は、利益を得ることでもなくクレームの防止でもありません。「おもてなし」の心を持って患者様に接することで、医療従事者と患者様の心が通い合い、双方の間にあたたかなものが流れることが「おもてなし」の目指すところです。
患者様が来院されたときの対応を具体例に挙げて、「接遇」と「おもてなし」の違いをみてみましょう。
患者様に挨拶をする際に、やさしい表情・明るくあたたかみのある声・目をしっかり合わせて・・といったことをポイントとするのは、患者様に気持ちよく利用していただくための「接遇」です。
しかし、「おもてなし」の心を持って、相手を「たくさんいる患者様のひとり」ではなく「大切なひとりの人」として接していれば、
「本日はいかがなさいましたか?」「お変わりはありませんか?」
といった言葉がおのずと付け加えられるのではないでしょうか。
そしてこのように声をかけてもらった患者様は、「自分の状態や気持ちを気にかけてくれているんだな」と、あたたかい気持ちになるとともに、大きな安心や信頼感を感じることでしょう。
「おもてなし」と「接遇」が異なる点を簡単にまとめると、下記のようになります。まずはしっかりと「接遇」の心が行き届いていることが前提ではありますが、相手を敬い尊重した「おもてなし」の心を働かせるとプラスアルファのお声がけや気配りなどできることが多くあることに気づかされるのではないでしょうか。
3. 医療現場のおもてなしに必要な3つの心構え
医療現場で、前述のような「おもてなし」を実現しようとするときに、持っておきたい心構えがあります。
1.心を汲む
患者様は一人ひとり、健康状態はもちろん、性格や考え方・その時の精神状態が違い、求める対応も違います。患者様一人ひとりを一個人として尊重する心があれば、自然とそのような違いを認め意識した接し方ができるでしょう。
医療現場の「おもてなし」は、患者様が言葉に出して求めずともその心の中を想像し、「こうしてくれたら・・・」という想いに寄り添おうと、自身の心と手を精一杯働かせることなのです。
2.癒す
病院に訪れる人は心身が弱っている状態でいらっしゃいます。そのような時に求める快適さと、心身ともに健康な時に求める快適さは違います。
例えば熱があって身体がだるい時や、怪我をして痛みがある時などはできるだけ静かに、楽な体勢でいたいと思うものです。そのような状態の患者様を受付する時であれば、明るく元気の良いあいさつをしようとするよりも、声を少し落とし「大丈夫ですか?」「痛みはありますか?」と相手を気遣う気持ちを伝えるお声がけをする、また受付のカウンターなどではなく近くの椅子に案内し座っていただいた状態で受付をするなど、苦痛や不安でこわばった心身の緊張を緩め癒しを与える接し方が必要です。
3.看護る(みまもる)
心身に不調を抱えて来院される患者様は、診察を待っている間にも容態が悪化することがあるものです。そのような特異性があるため、医療現場のおもてなしには患者様を「護る」という側面も必要です。(「護る」には”目を離さず見守る、世話をする”といった意味があります。)
スムーズな対応だけではなく、いかなる時も患者様を「護る」ということを意識した充分な対策を講じておかなければなりません。
4. まとめ
当然のことではありますが、病院では病気・怪我の診断や治療という行為に集中してしまうあり、患者様が病院で過ごす「過程」が顧みられなくなる傾向があります。
しかし、「ホスピタル」という言葉が「客」を意味する言葉から派生しているように、病院とおもてなしは実はとても密接な関係で、同じ土壌を持つともいえるのです。患者様という一個人に敬意を持ち、さまざまな心を働かせて、精一杯手を尽くすおもてなしを医療の場で実践することができれば、患者様満足度が高まることはもちろん、患者様と医療従事者との間にあたたかなものが流れる場が実現されることでしょう。